《はじめに》
大きな病気をしたことのない私が、「すい臓がん」という病気になって、はじめて「限りある命」というものを考えた。今までだって、哲学的な本を読んだり、人生の意味について考えたり、どう生きるかについて考えていた。でも、それらは、全部「考えているつもり」だった。
私は、なんにもわかってなかったし、なんにも考えてなかった。
だから、今の私が考えたことを書いてみたい。
この病気になってから知り合った「がん」の専門医の先生(主治医ではない)が教えてくれた。
「がんになると、みなさん命について考える。そうして、がんになったひとは、一気に人として最も高いところに成長するんですよ。それは、突然死してしまったら到達できない境地です。」
始まり
がんが見つかった。それも、すい臓がん。
昨日までは、病気もない普通の人だった。
数日気持ちの悪い日が続き、かかりつけのお医者さんに3回ほど行き、突然「紹介状書くから、明日すぐ総合病院へ行きなさい。」
そして翌日。朝9時に始まった受診はずった続いた。
血液検査の結果を見た総合内科の先生が、「造影CTもやりましょう」と言い、消化器内科の先生にまわされ、待つこと2時間。
やっと入った診察室で消化器内科の先生に「胆管が狭くなっていて黄疸が出ている。その原因は、おそらくがんではないかと思う。すい頭部という場所。」と告げられた。
(そんな衝撃的なことを普通に言っちゃうの?)
そんなばかな・・3か月前にはすい嚢胞の検査でMRIを、先月には人間ドックを受けて、どちらも異常なしだったのに。あれは何だったの?
(用心深い性格の私は、いろんな検査をちゃんと受けてるのよ)
消化器内科の先生に食い下がるも、見つからなかった可能性もあるし、急に大きくなることもあるから、という答え。とにかく、すぐに入院、治療開始ということになった。
こうして長い受診の一日は終わった。夕方6時だった。
職場に寄り、明日からの休暇を願い出て、驚く同僚を尻目に家に帰った。
(こっちだってめちゃくちゃ驚いてるわい)
家に帰り、明日から入院することを話すが、「がん」という言葉は怖くて口にできなかった。